読書感想メモ『ムカシ×ムカシ REMINISCENCE』森博嗣


「とにかく、金持ちというのは根性が悪くて、人間として嫌な奴なんだっていう既成概念っていうの、ドラマでもものすごく多いでしょう?その方が庶民が喜ぶわけよ。あんなふうになるよりも、貧乏でも正直に真面目に生きていこうってさ」

保呂k……椙田さんも、「金に目が眩んで頭がおかしくなる奴って、本当にいるのか?金に目が眩んだ奴が計画で、策略的で、まったく狂っていない一方で、金には無縁だとか言ってる人間にかぎって、カッとなって人を殺したりするんじゃないか」(一部改編)と言っています(また、森先生は別の本で、金持ちは良い人だから金持ちになる、というようなことも言っている)。
世間の固定観念にズバッ!と切り込む発言が、相変わらず淡々と会話の中で展開されています。こういう会話のできる知り合いがいるって、なんかいいよな〜と思ったり。

女性は若さや美しさをウリにできるという話。これ、常々私も考えていることなんです(ほんまかいな)。"女性だから"と、ある点では甘やかされる。でも、それに甘んじることで、もっと(少なくとも私にとっては)根本的な何かが損なわれてしまう。
自己責任という言葉がある。甘んじることも、悪ではない。だけれど、誰かが甘んじることが、別の誰かに重要なものを損なわせることもあると思います。
泣く泣く"若い女性"であることをウリにして大成功した作家Aがいる一方で、Aのような作家が後を絶たないため、ありのままの自分の作品を見て欲しいのに"若い女性の作品"としてしか見てもらえず悩む作家Bがいる。
世の中の要求に沿っただけのAを、Bは責めることができない。
世の中って難しい。
だから、私はレディーファースト、なんて言葉にも実はちょっとだけ抵抗があります。相手に悪気がないことはわかってるんですけどね。

森先生の書くお話は、本当に会話が面白いなあ。展開が派手にドラマティックなわけでも、登場人物がやけに感情的なわけでもないのに、何故かぐいぐい引き込まれちゃう。この引き込まれ方がとても心地いい。なんてったって、今巻は探偵が全然推理しませんでしたからね。軽い議論はあったけれど、結局警察の科学的捜査で犯人が突き止められるっていう。いや〜〜日本の警察は優秀。


エピローグで衝撃。偽物だと思われていたゴッホの絵がやっぱり本物。そうすると、もうひとつ、偽物だと思われていたものが頭に浮かびました。君坂一葉さんに流れる血も、本当の本当は、本物……?
となると、動機は読者が想像するしかありません。まあ私は、動機がわからないままでも不満はありません(この本が初めて読む森博嗣だったら不満だったかも笑)。死体の頭に載っていた皿にも、理由なんてないのかも。人間の行動のすべてに理由があるのか。一葉さんはもういないので、動機を知ることは小説の中の探偵にだって不可能です。まさにリアル。


そうそう、大事なことを忘れていた。ゴッホを売った金が真賀田四季のもとに流れたという……ついにXシリーズにも四季の影が!おそろしや〜


小川さん、優しい人だなぁ。
夕影巴絵

ゆうかげともえ、と読みます。

哀感パヴァーヌ

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