読書感想メモ『六人の超音波科学者 Six Supersonic Scientists』森博嗣
※次作『捩れ屋敷の利鈍』とその次作『朽ちる散る落ちる』読了後に書いています。想像していた以上に新生活が忙しく、文字に起こす時間がなかなかとれていません……。辛い。
恋恋蓮歩の衝撃が抜けないまま読み始めた本作。冷静に読めるか少々不安だったけれども、恒例の保呂草さんによる一人称語りを読み終えたころには落ち着きました。
いつものメンバーが訪れた山中の研究所で殺人が起きます。現場を外界と結ぶ唯一の橋は爆破されて使用不可。
定番のシチュエーションだけれど、それだけではありません。祖父江七夏が、橋が落ちた時にタイミング悪く(?)向こう岸にいたのです。そういうわけで祖父江さんも紅子さんたちのいる研究所に行くのですが……。
私個人的には、祖父江さんと紅子さんのやり取りがたくさん見られたのがよかったです。恋敵役というのは恋敵役だという理由だけで読者に憎まれがちですが(視点が変われば、こちらのほうが『憎き恋敵』になるのに(笑))、紅子さんと祖父江さんに関してはそういう気配を感じません。どちらもとても魅力的で、祖父江さんは決してただの引き立て役にはならないんですよね。
『悪役』とか『ライバル役』とか役割をあたえられて、その役割を遂行するためだけに動かされているキャラクターたちを見ても、心は全くワクワクしません。だから、祖父江さんが『恋敵役』ではなく、ちゃんと『祖父江七夏』として存在しているこのシリーズが私は好きなんです(もちろん彼女だけではないです。例に挙げなかっただけで、登場人物全体に言えることだと思います)。
最後に紅子さんが感情を爆発させたのがよかったです。
私は、どっちが泣くのも見たくないです。
れんちゃんがピンチの時は、「れんちゃんだもん。ここで離脱するわけがないし」と思いつつも気が気じゃなかったです。好きなキャラが危険な目に合うのは、どんな状況であってもはらはらします。
冷静に対処していたけれど、犯人に腹を立てて無表情で叫んだ紅子さん。普段はあまり見られない真剣な、精悍な表情になっていた保呂草さん。涙を流した紫子さん。愛されているなぁ。
そして、このシリーズ通しての謎ともいえる(私が勝手に言っているだけです)人を殺す理由について、本作も紅子さんの口から語られました。目的を果たすためのどんな立派な理由も、人を殺す理由にはならない。理由があるからと殺しを正当化していくうちにどんどん堕ちて行って……人ではなくなってしまう。今回も至言です。
それから、推理ショーの場面を読んでいて思ったこと。紅子さんは基本的に保呂草さんを信用していないし、そもそも眼中にない感じですが、頭脳の面では信頼しているのがいいですね。『さすが保呂草さん』って(笑)この二人の独特な距離感、好きです。
この事件、徐々に計画が崩れ、破綻していく感じがリアルで怖いです。紅子さんの言う通り、破綻から逃れようとするうちに、どんどん人の道から逸れて、堕ちてしまう感じが。
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