牛田智大ピアノリサイタル 2023.9.12 旭川大雪クリスタルホール ベートヴェン,ショパン

今日は牛田智大さんのリサイタルを聴きに、旭川へ来ています。

牛田さんの生演奏を聴くのは前回3月の独墺プログラム(その時のブログ)が初めてだったのですが、今度はベートーヴェンを弾くと知り、絶対絶対聴きたい!と思い、多少無理して遠出しました。

では、早速感想を。拙い感想で恐縮ですが、残しておきたいので書きます!

もしご気分を悪くされる方がいたらごめんなさい。前回同様、Twitterの別のアカウントですでに一部同じ内容のツイートをしていますが、中の人は私です!


ベートーヴェン:ピアノソナタ第31番

最初の曲が始まる前はこっちまで緊張してしまって心臓が速くなるのですが、第1楽章が始まるとすぐにほう……と緩和しました。その人の音色を表す音って「絵の具」とか「宝石」とか「雫」とか色々あると思うんですが、牛田さんは雫ですね。滴る音色に心が潤って癒されました。打って変わって軽快な第2楽章は、ずっしりとした勇猛な入り。ペダリングとの一体感。身体を前後に揺らしながら左足を踏み鳴らし、右足で細かくペダルを捌き、本当に繊細に、時には大胆に全身を使って弾いているんだな、と近くの席で見ると実感します。

ベートーヴェンの第3楽章って、私は漫然と聴いてしまいがち(長いから?)です。牛田さんの演奏には「ここにこんな歌があったんだ」という発見が沢山あって、聴き入ってしまいました。丁寧で重層的な牛田さんの音楽がよく合っていて、ベートーヴェンの他の曲も今後もっと真剣に聴いてみたいと感じました。


ベートーヴェン:ピアノソナタ第23番「熱情」

牛田さんの丁寧に揃っているトリルが好きなのですが、第1楽章ではそれを堪能しました。ベートーヴェンのトリル。盤石なテクニックが曲に溶け込んで、なんの雑念もなく静と動の響きに惹きこまれます。優しい音と一つ一つがずっしりとお腹に響く音。第2楽章も凄まじい集中力で、息をするのも忘れて聴き入ってしまいます。

その集中力を引き継いで強い和音から始まった第3楽章では、2年前に新しく見た「熱演」する牛田さん再び。CodaのPrestはスピーディかつ重厚感増し増しで、上のメロディラインがミスタッチなしでしっかりと。重厚なPrest、あらためて大迫力でした。Prestは短いからしっかり聴かないと、と思っていたのに圧倒されっぱなしでした。そのままクライマックスへ。牛田さんのベートーヴェン、ブラボー!


ショパン:12の練習曲 作品10

普段は技巧をほとんど前面に出さない牛田さんによる練習曲(エチュード)にドキドキ。特に、最初の10-1と10-2が……。

ドキドキしたまま心の準備ができないうちに、スッと始まった10-1。すごい安定感……。鮮やかかつ豊かな音色で、右手の速いパッセージには聴く限りミスタッチも無く。思わず、もっとテクニックを売りにしても良いのでは!?と思ってしまうような完成度でした。

10-2は、いつも聴いているだけのこちらまで手に汗握ってしまいます。この曲に対してはテクニックを証明するために弾かれるイメージが強いのですが、牛田さんの演奏は丁寧に慎重に細かく強弱をつける、聴いたことがないタイプの演奏。こちらもミスは聴こえず。

10-3「別れの曲」について、私は世間で言われているほど泣けると感じたことがないのですが、優しく温かい音色にほろり。

10-4でされる攻撃的な解釈を、私は少し苦手だと感じていました。しかし、牛田さんの演奏は期待を裏切らず。10-1で「テクニックを売りにしても良いのでは」と思ったことは即刻取り消しました。やはり牛田さんはテクニックで圧倒するのではなくて、テクニックを手段として「聴かせる」ピアニストで、だから好きなんです。

10-5「黒鍵」も軽快だったり滑らかだったりするだけでなく、細かく強弱をつける、なんというか情報量の多い演奏だと感じました。この曲で得たことの無い満足感!

10-6はエチュード集の中ではとりわけゆったりとした曲調ですが、牛田さんの演奏にはじんわりと体が汗ばむ独特の切迫感が。10-7は軽快さと柔らかさを併せ持ちつつ、一音一音しっかりと響かせていきます。

10-8でどっしりと豊かに歌う左手と、速いパッセージの音をつぶつぶと際立たせる右手。今ままであまり聴こえてこなかった内声が歌われた時、ハッとしました。左手の歌い方が印象的で、すごく好みの演奏でした。牛田さんの演奏じゃないと物足りなくなりそう……!

10-9の良さを今まで全然わかっていませんでした。「嵐」の副題があることを知って、すごく納得。牛田さんのおかげでこの曲が好きになりました。10-10も10-7同様に軽快かつしなやかで、サラッと流されずに様々な歌がしっかりと聴こえてきます。コンクールの時とはまた違った印象を受けました。

10-11で柔らかいアルペッジョと和音の最高音の輝きに癒されて、いよいよ10-12「革命」。演奏が始まり、ショパンコンクールで衝撃を受けた熱演(その時のブログ)再び!と思いきや、特に主旋律を奏でる右手がさらに熱烈に、激しく歌い、深化していました。もがき苦しみながら激情と血を吐き出すような絶妙な溜めと緊迫感。はあ、本当に素晴らしかった……。


アンコールはパデレフスキのノクターンOp.16-4シューマンのピアノソナタ1番第2楽章シューマンの「トロイメライ」。繊細な音色、そして繊細なだけではない音楽。もうすぐリサイタルが終わってしまう……という悲しみをも癒してくれるような演奏でした。ついに聴けた「生トロイメライ」から感じたのは、繊細さゆえの芯の強さ。夢を実現させるための活力をもらえました。


やっぱり、牛田さんの演奏を聴くとその曲がもっと素敵だとわかるし、今日もまた好きな曲が増えました。それに何より、リサイタルが終わった後はもちろん寂しさもありますが、同時に「自分はもっとできる気がする」と元気が湧いてくるんです。牛田さんの真摯な音楽を聴くと、上手く言えないんですが勇気づけられるというか……。胸が苦しくなるようなニュースやそれに対するネットの声で気分が落ち込んだり、自分の今や将来が不安になったりしたときは、「牛田さんのひたすらに真摯で誠実な音楽を聴きたい!」と特に強く思います。先月も、期末試験前にどれだけお世話になったことか……(笑)


とにかく、来て良かった!と強く感じたリサイタルでした。1月に聴く予定のラフマニノフ2番も、今から楽しみで仕方がありません。

ピアノを持ち込んでのリサイタル。牛田さん、そして公演の実現に関わってくださった皆様、ありがとうございました!



夕影巴絵

ゆうかげともえ、と読みます。

哀感パヴァーヌ

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