読書感想メモ『サイタ×サイタ EXPLOSIVE』森博嗣
謎が謎を呼び、わけがわからないまま不可解なことがどんどん広がっていく感じが、今までのXシリーズでいちばん不気味でした。
佐曾利さんの本人確認がされていないことは、喫茶店のマスタに彼が『佐曾利さん』と呼ばれていたことのみを根拠に本人特定した時点から怪しいなぁと思っていた(思っていただけ笑)けれど、案の定ミスリードだった(笑)
中盤あたりで、佐曾利さん別人説〜だってマスタが佐曾利さんって言ってただけだもん〜に触れられてしまってガックリ(笑)中盤で触れられる仮説は、大体の場合間違ってますからね。
小川さんの過去。何か過去の詳細な描写があるわけでもなく、小川さんという個人が思い出を語っているに過ぎないのに、どうしてこんなに胸が締め付けられるんでしょう。劇的なエピソード(その人が死んだ時の話とか)が劇的に語られるよりも、その人と笑って普通に会話していたことを淡々と描写された方が、『死』とのギャップが激しくて切ない。
小川、鷹知、真鍋の性格の違いについての話。確かに鷹知さんが登場したばかりの時は真鍋くん寄りの人かなと思っていたけど、今はそんなでもないかも。依頼のない野田さんを守ろうとしたり結構面倒見がいいなぁと思う(真鍋くんが不親切だ、と言いたいわけじゃないですよ)し、真鍋くんほど切り替えが早い感じもしません。いい意味でも悪い意味でもなく。
犯人の疑いがある人物の家を丸腰で訪ね、さらには出された飲み物も素直に飲んでしまうという……ちょっとー!小川さん、しっかりしてー!!!これまで色々な事件に関わってきて、感覚がおかしくなっちゃったのかも。それか、自分は大丈夫っていう謎の思い込み?後に椙田さんはこの行動を"多少"軽率だったのでは、なんて表現していましたけど(笑)
咄嗟の判断を重ねて小川さんを助けた真鍋くん、カッコイイ。冷静で、思い切りがあって、いざと言う時頼りになるタイプ。多分。
佐曾利さんが鷹知さんとの電話で『コンロに火を着けていたので』と言ったのは、小川真鍋に紅茶を淹れるためかと思いきや……爆弾のスイッチかい!そんな電話で堂々と着火宣言しないで!怖いわ!
エピローグの椙田さん、相変わらず真鍋くんに関する発言が手厳しくて笑っちゃいます。『しかし、あいつも、役に立つときがあるってことだ』(笑)
病院で鷹知さんが間違えられた野田さんの兄の正体が、佐曾利さんだったとは……驚きました。残り数ページでどんでん返し。森ミスは結構な割合で最後の最後にどんでん返し的な事実が明かされたり、衝撃的な展開が待ち受けていたりするる気がするんですが、過剰な演出がなくて随分あっさりとしているんですよね。してやったり!みたいな感じがしなくて、私は好きです(笑)
小川さんの過去の一端、真鍋くんの火事場での活躍、鷹知さんの面倒見のよさや優しさが見られたし、一連の事件も気味が悪くて恐ろしく、面白かったです。このシリーズもあと一冊で終わりかぁ。寂しいな。
Vシリーズは保呂草さんが事件を多少の演出を加えて再構成した物語、という体だけれど、Xシリーズは無駄な演出が省かれた記録というイメージ。
キャラクタもなんとなくシンプル(派手じゃないというか……)で、ミステリというか、事件の調査記録?みたいだなって思います。そういえば、Xシリーズはこれまでのシリーズに較べて明らかに恋愛要素が少ない気がします。小川さんには過去のことがあるし、真鍋くんはぼんやりしてるし……(笑)
香山リカさん(精神科医)による解説から少し抜粋。
読者としては「もっと『実は私にはこういう動機があり……』と関係者に語らせてよ」と思うかもしれないが、私はここにこそ作者の誠実さとリアリティを感じるのだ。
(略)
これまでのミステリーでは、読者のカタルシスのために登場人物たちが最後にすべてを語りすぎる傾向があったように思う。犯人や容疑者自身が、あるいは捜査した刑事や私立探偵が、事件が起きた経緯やその背景にあった心理などを最後にすべて説明し、読んだ者は「なるほど!」と膝を打つ。もちろん読者は「ああ、スッキリした!」となるのだが、私はそこにちょっとウソくささを感じていた。人間、そんなにわかりやすいものじゃない……。
精神科医の方が言う「人間、そんなにわかりやすいものじゃない」は、重みが違う気がします。
作者本人の後書きが無いことにもすっかり慣れちゃいました。解説に共感しながら、物語の結末についてああでもない、こうでもない、と考える時間が楽しいです。
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