舘野泉ピアノ・リサイタル 2023.4.30 札幌コンサートホールkitara
「左手のピアニスト」として今も新たな世界を切り開いている舘野泉さんの、米寿記念演奏会へ行きました。
車いすで登場した舘野さん。
一曲目はシサスク、組曲「エイヴェレの星たち」より第2曲「エイヴェレの惑星」。
北国の澄んだ空で輝く、神秘的な星々が頭に浮かびました。太陽系の惑星の軌道計算に基づく音階は、日本で使われてきた音階と同じだったそうです。この不思議と日本的な音階に舘野さんが命を吹き込んで、日本人の中にある根源的な宇宙のイメージを想起させます。
一曲目が終わり、舘野さんがマイクを持って「エイヴェレの星たち」についてお話をしてくださいました。また、先月亡くなった妻のマリアさんが好きだった曲に、曲目を変更するということも。
二曲目はバッハ、「シャコンヌ」。
亡き人への深い愛情と悲しみがこもった厳かなシャコンヌ。胸が詰まると同時に、左手だけでこの荘厳な音楽を奏でる舘野さんに、ある種畏敬の念を抱きました。
二曲目が終わり、舘野さんが次の曲について、モーツァルトは左手の曲を書いておらず、光永浩一郎氏による編曲が初であることを紹介してくださいました。
三曲目はモーツァルト(編曲/光永浩一郎)、「女ほど素敵なものはない」。
打って変わって明るく軽やかなチェロとのやり取り。茶目っ気のある舘野さんのピアノと矢口里菜子さんのチェロの掛け合いが楽しい。
次の曲は、いよいよあの曲。酒呑童子のマントを着忘れて登場した舘野さんがステージ上で一瞬だけマントを羽織り、すぐに脇のマント掛けへ。笑いが起きました。
四曲目は平野一郎、「鬼の学校 左手のピアノと弦楽の為の教育的五重奏」。
事前にNHKで放送していたドキュメンタリーを観ていたので、この曲を聴くのを楽しみにしていました。人間離れした、まさに「妖怪」たちの応酬に冒頭から引き込まれました。先生(酒呑童子)の呼びかけに元気よく返事をする生徒(小鬼)たちが目に浮かびます。
柱である酒呑童子と、ぴょんぴょんと跳ね、時には凶暴な小鬼たち。混沌の世界を生き抜く生命力を、舘野さんのピアノがどっしりと導いていきます。小鬼たちは、最後には力いっぱい弓を引き、足を振り上げ、生命の跳躍(エランヴィタール)。気力を奪われた人間に根源的な生命力を思い出させてくれる鬼たちの生き様、胸が熱くなりました。
カーテンコールでは舘野さんと「鬼の学校」作曲者の平野一郎さん、それから鬼の面を着けたヤンネ舘野さん(ヴァイオリン)、安達真理さん(ヴィオラ)、矢口里菜子さん(チェロ)、長谷川順子さん(コントラバス)が登場。感謝と湧き上がってきた熱い気持ちを、精一杯に拍手に込めました。
アンコールは、山田 耕筰作曲/梶谷 修編曲の「赤とんぼ」。舘野さんの左手が生み出す世界に、魂の根源を揺さぶられるリサイタルでした。米寿記念演奏会の幕開けに札幌へ来ていただき、ありがとうございました。
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